静謐と余白が導く、都市の中の内省空間
– BONGEN KYOBASHI –

  1. インテリア

静かに佇む盆栽が、ひとつの宇宙を成すように、BONGEN 京橋店の空間は、日本の伝統と素材の力が織りなす詩的な美しさに満ちている。ここでは、一つひとつの素材が時を刻み、空間に生命を吹き込む。

入り口を抜けると、足元に広がるのは淡路から取り寄せた日本瓦のタイル。その静かな輝きは、長い歴史を経て受け継がれてきた職人技の結晶であり、ひんやりとした質感が足裏に心地よい緊張感をもたらす。瓦の一枚一枚に刻まれた陰影が、光と影の対話を生み、訪れる人々をやさしく包み込む。

さらに、床には玉石安土研ぎ出しを採用し、職人の手によって磨かれたその質感は、しっとりとした奥深い風合いを持つ。無数の玉石が滑らかに磨かれながらも、その一つひとつが自然の造形美を宿し、歩を進めるごとに異なる表情を見せる。光が当たると、石の持つ微妙な色合いが浮かび上がり、静かに空間に溶け込んでいく。

カウンターに採用されたのは、香川の焼杉。炎に晒されながらも焼かれることで強度を増し、深みを増したその木肌は、静謐さと力強さを併せ持つ。この焼杉は、ただの素材ではなく、時間そのものを閉じ込めたかのような存在だ。触れると、指先に伝わる温もりが、木が生きていることを教えてくれる。その表情は光と共に移ろい、時間とともに変化していく。

壁面を彩る左官仕上げは、オリジナルの配合によって生み出されたもの。手仕事の跡が微細な陰影を生み出し、見る角度によってまるで異なる表情を見せる。マテリアルそのものが呼吸するようなこの質感は、自然と空間に奥行きをもたらし、無機質な都市の喧騒を忘れさせるほどの静けさを宿している。

この空間のもうひとつの主役は、岐阜産のタモ材で作られた家具たちだ。タモの持つ美しい杢目は、均整の取れた緊張感と温もりを同時に漂わせる。木目はそのまま時の流れを映し出し、光を受けてゆるやかに変化する。触れればしっとりとした質感が手に馴染み、椅子に腰を下ろせば、静かに空間と一体となる感覚が生まれる。

この空間の本質を際立たせるのは、照明がつくり出す陰影である。光は決して均一ではなく、計算され尽くした角度から差し込み、素材の表情を際立たせる。光が生まれるところには、必ず影が生まれる。そして、その影は決して単なる暗がりではなく、空間の一部として呼吸している。盆栽が織りなす細やかな枝の陰影、壁面に刻まれる左官の柔らかな影、焼杉の凹凸が生み出す奥行き。すべてが互いに響き合いながら、ひとつの調和を生み出している。

BONGEN 京橋店は、日本の伝統を現代に紡ぐ試みであり、そこに流れる時間までもがデザインされた空間だ。素材そのものが持つ時間を尊び、手を加えることで新たな命を吹き込む。この場所で過ごす時間は、単なるカフェのひとときではない。静かに流れる時を感じ、素材の語る物語に耳を澄ませることで、都市の喧騒の中にあっても、心の奥深くに静寂をもたらす。

それはまるで、長い年月を経て育まれた盆栽が、静かにその美しさを湛えながら存在し続けるように
BONGEN 京橋店は、時と共に変化し、なお深みを増していく空間である。

「至高のコーヒー」との出会いが生まれる場になるよう願いを込めて。

BONGEN KYOBASHI

用途
カフェ
場所
JR東京駅
竣工
2025年4月
構造
鉄筋コンクリート造
階数
1階
実績の画像
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