鎌倉・長谷。海と寺院に囲まれたこの街は、古都の静けさと海辺の開放感が交差する特別な場所です。
その町並みに寄り添うように建つ二棟の一棟貸し宿「坂のなな夜」は、ただ泊まるだけの宿ではなく、
日本文化を五感で“感じる”ための舞台としてデザインしました。
名前の由来は「静寂に泊まる、鎌倉の七つの夜」。時間の流れを愛でるように滞在を重ねてほしいという願いが込められています。二棟の名は「星」と「月」。それぞれに異なる物語を持ちながら、共に旅人の心に深い余韻を残します。
「星」の棟は、凛とした透明感を意識しました。光を受ける白壁と木の温もりが、昼間は爽やかに、夜は灯りと共に星明かりのようにきらめきます。窓を開ければ、潮風や鳥の声が差し込み、日常を離れた解放感を味わうことができます。
一方「月」の棟は、柔らかな陰影を大切にしています。間接照明のやさしい光、漆喰や木の質感が織りなす静けさの中で、月に照らされるような安らぎを感じられる空間です。夜が更けるほどに落ち着きを増し、旅の疲れを癒やし、深い眠りへと導きます。
空間デザインは日本の美学である引き算の美を意識し、必要以上の装飾を排したことで、訪れる人が歴史や自然の気配をそのまま感じ取れるようにしています。朝は寺の鐘に包まれて目覚め、昼は長谷の街を歩き、夜は星と月に寄り添う。その一連の体験すべてが、宿のデザインと呼応するように計画されています。
「坂のなな夜」は、単なる宿泊ではなく、鎌倉そのものを体感するための“器”です。ここで過ごす七つの夜は、旅人の記憶に静かに刻まれる、日本の物語となるでしょう。
「鎌倉の歴史」との出会いが生まれる場になるよう願いを込めて。