mont blanc standで実施したアクション型の環境循環型デザイン

前回のコラムで、kusukusuでは毎回、店舗をデザインする前にブランディングを考えていると書きました。ブランディングを考える際にはまず、理念や哲学などをオーナーさんに伺います。次にその内容をプロットし、それをもとに、事業の目的をまとめ、市場を把握し、事業の強みや弱みをマーケティングの視点から分析し、ターゲットなどを絞っていきます。そうしてようやくまとめた企画書をオーナーさんに提案して、OKをいただいてから内装デザインやロゴデザイン、パッケージ、ホームページのデザインに取り掛かるのです。
なぜこのようにトータルブランディングから関わるのかというと、オーナーさんと直接話して、理念や想いなど深く理解するためにほかなりません。根本からオーナーさんの哲学を捉えることができれば、オーナーさんの意向に合う内容でしっかり提案できる。単なる店のデザインだけでなく、オーナーさんと二人三脚で店づくりができるのです。

今回紹介する「mont blanc stand(モンブランスタンド)」でも同様に、オーナーさんと丁寧にコミュニケーションを取り、アクション型の環境循環をデザインしました。店舗デザインをご依頼いただいのは、2018年の8月です。

このお店は、オーナーさんにとって2つ目の店舗。最初にお話を伺ったときは、ご自身のつくったケーキ各種を販売する「まちのケーキ屋さん」をイメージされていました。ブランディングにあたり試食をさせていただくと、すべてのケーキがおいしくて、さすが何十年もやっていらっしゃる!と思いました。

ケーキ全てに熱い想いがあり、一つひとつにストーリーがあります。でも僕は、「近隣の方をターゲットに、モンブラン専門店でブランディングしたい」と提案しました。開業予定地はすでに洋菓子屋さんのあるエリアでしたが、モンブランだけでも十分に商品としての魅力があり、勝負できると思ったからです。加えて、技術的な判断もありました。お店の専有面積がショーケースも置けないほどの面積だったため、ケーキ1種類のテイクアウト専門店にして、厨房機器を最小限にしたほうが、良い空間をデザインできると考えたのです。オーナーさんには、テイクアウトにすることにはすぐに同意いただき、モンブラン専門店にすることにもじっくりお話をして納得いただきました。

方針が固まれば、デザインを進めます。お店唯一の商品であるモンブランをモチーフにしてシンプルな店舗としました。店内の壁面は鎌倉の土をつかって白く、それぞれ3・5・7本にまとまったベージュ色のラインをあしらって、めでたさをイメージしています。土はひび割れても補修ができるだけでなく、内装を変えるとなったら砕いてまた土に戻せる、というフレキシブルな素材です。これも、環境循環型のアイデアのひとつです。

mont blanc standで実施したアクション型の環境循環型の設計は、アクション型です。お店自体はテイクアウト専門ですが、お客さんがその場でモンブランを食べてカップを返却することで、メレンゲがプレゼントされます。この仕組みは、僕自身の思いとオーナーさんのアイデアとが合わさってできあがりました。
僕自身が設計をしていて一番イヤだなぁと思うことは、お店を出発点にまちなかにゴミが拡散されてしまうことです。なるべくゴミが移動しないように、お客さんにその場で食べてもらうために、店舗内にひとつだけベンチを設置しました。でももうひとつ、カップを返してもらうためのアイデアが必要だと思っていたのです。そこでオーナーさんに、「カップを返してもらったとき、なにかプレゼントできるものありますか?」と相談し、オーナーさんからは「モンブランのなかに入れているメレンゲとかどうでしょう?」とご提案いただきました。実施してみたらお客さんは「メレンゲもらえた!」と喜んでくれているようで、これはもうとてもうれしく感じますし、モンブランのおいしさと並ぶ、お店の特徴になったと僕は思っています。

こんなふうにお客さんのアクションを設計することによって、商品の魅力だけでなく、アイデアやアクションそのものが生み出す効果までも注目してもらうことができます。
とくに今回の場合は、「プレゼントがもらえた」というお客さんの驚きと喜び、ゴミが周辺に捨てられることがないというまちのキレイさの維持という情報が、副次的に広まり、まちで起こっている良いこととして、多くの方に捉えられているように思います。